マクベスいろいろ2025/04/29 01:31

 「マクベス」は好きなので、これまで何度か観てきた。翻案で一番好きなのは劇団⭐︎新感線初演の「メタル・マクベス」だ。ストレートな堤真一マクベスは長塚圭史演出で面白かった。舞台を観客が囲む設えで、役者の見え方が普段と違う。中嶋しゅうの佇まいが妙に印象に残っている。彼が亡くなってしまったの、とても残念に思っている。
 マクベスの呪われた弱点が暴かれる場面が好きな私は、当然だがそこに向かって、後に引けなくなった野心と予言を信じ己の正当化に足掻くマクベスと、マクベス夫人の苦悩などを観ている。
 先日観たのは串田和美の創出するまた別の「マクベス」だった。好物の最終場面ははっきりと描かれず、その暫く後を見せられているのかと判断に迷う場面に続く。
 私の中では、魔女は魔女であって、神の存在などあらばこそ、暗い淵から転げ落ちそうになりながら、わずかに残る良心とのせめぎ合いをしながらの人殺しが、悩み苦しむ姿でないといかんと、ガチガチに固まっている。それ故か、このマクベスは未消化だ。なんだこのゆるふわ感はと。何かに幻惑されているようだ
 こんなマクベスは初めてだという点で、面白かった。

 ラストの展開は「泣くロミオと怒るジュリエット」を思い起こさせる。再演をまた観に行く予定。

「おちょこの傘もつメリー・ポピンズ」2024/06/19 01:39

 花園神社における新宿梁山泊77回公演。開演19時、降る雨は次第に上がり始める。
 おちょこを演じる勘九郎に十八代目勘三郎の面影が何度か現れて、桜姫の時の勘三郎を思い出す。紫テントにシアターコクーンのような広さを感じてダブったのか。
 去年この観客席には唐十郎がいた。それを私は左側のやや上の方から眺めていた。出演者の一人である大鶴義丹が父の席に出向いて挨拶をしたのを見た。寺島しのぶと豊川悦司が観客の中にいた。
 今年、5月4日に亡くなった唐十郎が座るはずだった席に、大鶴佐助が招かれ父の代役を務めている。
 演者には勘九郎の他、寺島しのぶと豊川悦司がいて、六平直政、風間杜夫、大好きな松田洋治、水嶋カンナ、そしてのぐち和美。
 この一年は熟成のためにかけられていたんだと、私には可視化された形で理解できた。
 それにしてもなんなんだ、この自由に見える面白い歪は。正直何を観たのか分からない。

唐十郎と寺山修司を思う日2024/05/05 23:36

 5月4日に唐十郎が亡くなったのを今日知った。
 私は5月4日の昨日という日に寺山作品を観るため小さな会場にいた。寺山修司をこよなく愛する人が主宰のその舞台は厳しくて、美しくて、愛らしかった。
 芝居が終わって最後の挨拶で5月4日は寺山修司の命日です、忘れないで伝えていってと彼女は言った。

「百年たったら帰っておいで 百年たてばその意味わかる」

#人魚姫 #階段を半分降りたところ #寺山修司 #のぐち和美

正月だった2024/01/07 23:50

 二年ぶりの米團治の噺はよう効いた。凝りが解けた。文楽が東京で人気があるの喜んでた。まあ上手とは思うけど。
 三席、芝居繋がりで賑やかで面白かった。仕事もせんでその日観てきた芝居の場をなりきって演じるアホぼんとか。米團治が最初の枕で落語界には珍しくうちは世襲だったというところから、歌舞伎もそうやさかい好きなんや〜って繋がりの芝居三昧。
 夢洲のことちょっと言ってたな。あの政党とこの政党があそこで何やらやろうとしてるが地盤ズブズブなんでっせって。ちゃんと見てはる。
 そういや小痴楽は東の世襲。どっちも言葉がいいねえ。ちゃきちゃきやん。ああ、林家もそうだったがごちゃごちゃしてて小朝に落ち着く。
.........
 元旦の夕方の出来事は相当な衝撃で気分ぼこぼこだった。チケットの案内通知を見て急に取ったのが2日の夜。行けてよかったねえ。

今年が終わりそうだ2022/12/27 02:02

12月はエンジンがかかり展覧会、芝居、映画をそれなりに観ることができた。ライブはなかったけど、その前に聴きに行ってるからそれを足したら完成ね。美しい本も買ったな。
体力がだいぶ取り戻せた実感があって、重い気分から解放されたのか、楽しい気分が持続している。(変なハイ状態じゃないだろな)
戯曲、脚本、台本呼称はなんでもいいが、芝居の言葉を見直すことがこれがまた、とてつもなく楽しいことのように感じる。今月観た芝居のいくつかはもとの戯曲を読めというメッセージをくれている。シェイクスピアは素晴らしい残り香。
あとどれだけ生きるんだろうか。そんな考えがかなりの頻度で頭に浮かぶのが当然の年頃なんだわ。心は命の奴隷だからね。

訃報も混じっていた。今月はいくつか縁のある人の訃報があった。知った時の気持ちの色合いは少しづつ違う。

「ホロウ・クラウンー嘆きの王冠 Hollow Crown」2022/12/18 15:05

このシリーズの最後を飾るのは「リチャード3世」だから、見終わったばかりのリチャードのトピック。どのリチャード三世が好きかなんて好みの問題で、いくつかのリチャード3世の中で、私はアル・パチーノのリチャードが物静かで凄みがあって好きだ(でもいずれも一度しか観ていないからな) このホロウ・クラウンのカンバーバッチのリチャードは好きじゃなかった。演出のせいでそう感じただけかもしれないから、本当に当てにならないという意味で単なる好みです。あとは自身の教養のなさですな。呪いの場面のアレンジは、ちょっとひねりが効いていて興味深いからもう一度構成を見るべきところと思うが、好き嫌いならあまり好きじゃなかった。

ヘンリー5世がヒドルストンで目がハートに変わったのは、ひよこが生まれて初めて見た生き物を母親と認定するのと同じ作用が働いただけかも。他にヘンリー5世は文字でしか縁がないのです。

百年戦争、薔薇戦争を背景とした歴代国王の名のついたシェイクスピアの作品で読んだのは「リチャード三世」と「ヘンリー五世」だけだ。故に時代に沿ってシェイクスピアの王の物語が一連のシリーズに映像化されたことは、私にとってこの上ないありがたき幸せ(加えてチャンネル登録7日間無料というサービスを利用)

で、「鎌倉殿の13人」が最終回を迎えた。シェイクスピア劇を観るような面白さだったから、途中からにしてもずっと楽しめたのだけど、先週あたりでヘンリー五世のアジアンクールの演説と、政子の演説を続けて聞くタイミングになったのは、面白い偶然だった。

シーズン1の「リチャード2世」は舞台装置と演出の際どさで好き。

「泥人魚」2021/12/15 20:46

唐十郎原作の「泥人魚」。主演は宮沢りえと磯村勇斗。
井上ひさしも絶賛したこの作品、予定が合わなくてチケットを取らなかったが、配信ライブがあったのでそれを購入した。見逃し配信は無いので、開演時まで緊張してPCの周りをうろうろした。
最初はノートPCのモニターの小ささに悲観的だったが、中盤からは舞台に引き込まれた。
宮沢りえの美しさは際立っていて、唐十郎作品・蜷川幸雄演出「下谷万年町物語」を始めとする色々な役柄の印象を超えた。
岡田義徳が意外なキャスティングと思ったけれど、魅力に気がつかないだけだったのかな。元々嫌いな役者じゃないからか、中盤からのややこしい立ち回りが合っていると思った。
磯村勇斗は「きのうなに食べた」のジルベール役で初めて認識した人。映画版早く観なくちゃ終わっちゃう。

YouTubeから #泥人魚
https://youtu.be/uMYBBRr-aw8

https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/21_doroningyo/flyer.pdf

受賞やら訃報、そのほか2021/10/26 20:15

天皇家の娘が一般人との結婚を発表し、唐十郎が文化功労者に選ばれ、白土三平と弟の岡本鉄二氏がわずかな日にちを隔てて亡くなったと、ニュース色々。
衆院の選挙報道をテレビは本気で取り上げず、天皇家子女の結婚を情緒的な言葉で盛り上げるばかりだ。ブランドは消せないがそこそこ削った彼女の結婚はいい始まり方だ。離婚があってもOKだ。すべて彼女の人生じゃないか。天皇制の犠牲者で終わるのを拒否はした。
文化功労者とはなんぞ、老境とは?ブルータスよ。
「カムイ外伝」をはじめとする大作をものした漫画界の巨匠は89歳で亡くなった。
東日本大震災から10年。悪政が続いたところにコロナが降りかかる。そしてまだ収束した訳じゃない。
自虐的な歴史観なんてものじゃない。国民が自虐が好きだから今の政府が保っているのよ。何をやっても政治は変わらないと言って、考えることをやめ、メディアは権力者につく。DVから逃れられない。

以下受賞に関する毎日新聞の唐十郎氏の取材コメント。
「2005年に紫綬褒章の内示を辞退した者に再度光を当てて頂けましたので大変驚きましたが謹んでお受け致します。井上ひさしさん、蜷川幸雄さん、山崎正和さん以来しばらく演劇界からの受賞者が不在とお聞きしました。この受賞が次の演劇人に結びつければ尚(なお)嬉(うれ)しいです。昨年から劇団唐組も芝居の延期や中止に追い込まれた現状に異風を起こしたいと願っております」

「三月大歌舞伎」はブルー2021/03/29 23:34

歌舞伎座へ。
三月大歌舞伎千穐楽の三部、6時半開演「桜門五三桐(さんもんごさんのきり)」と「隅田川」
五右衛門の中村吉右衛門は日曜日に倒れ入院したまま、代役は久吉を演じていた松本幸四郎が立った。
声が似ていた。身内ということもあるだろうけど、歳をとって貫禄が出たせいかしら。桜の満開を舞台上の南禅寺で見る。
「隅田川」は坂東玉三郎。
川が重要な要素になるドラマだから、因果を感じた。見失なった子供を追う狂った女。青い色彩で纏められた舞台が美しい。
吉右衛門さんのことといい、「隅田川」といい、物哀しい喪失感で劇場を出た。播磨屋さん、再び舞台に戻ってほしい。

追記
気になって買った能楽タイムズに野村萬斎さんの対談記事があり、自らのアレンジで上演された「隅田川」に言及していた。そこで持論とした上で語っている部分をそのまま引用。
「晩春の夜明けで終わる能<隅田川>は奇跡を肯定する癒しの物語であり、鎮魂と再生の劇であって、荒涼たる絶望のドラマではない」
これで文字通り救われた。乱暴すぎる理解から解放された。

「シェイクスピアの庭(All Is True)2019」2020/11/28 21:59

ケネス・ブラナー監督主演、他にジュディ・デンチ、イアン・マッケラン。
特典映像にはK・ブラナーの思いを語るインタビューもあって、シェイクスピアと彼との仲を推し量るのに役に立つ。
ケネス・ブラナーの「から騒ぎ」を劇場で観ている。ケネス・ブラナーとマイケル・キートンが目当てだったのかな。デンゼル・ワシントンもいたな。よく覚えているような気がしているのは、たまにうちにある映画のプログラムを手に取っているからだ、と思う。
その「から騒ぎ」から何十年経つのか。K・ブラナーも歳を取り私も歳を取りで、彼がシェイクスピアの晩年を演じる作品を観ることになったんだと、事実確認だけで感無量。
観終わってからNHK-FMをつけたらFMシアターの時間で「ロミオとジュリエット」をネタにしているドラマだった。
シェイクスピアがシンクロニシティ。