ジャム(猫)の話(その1)2024/02/03 20:39

 猫のジャムをうちに迎えるきっかけを作ってくれた知り合いに、偶然再会した。夜の9時近く、前の住まいに近いコンビニにコーヒーを買いに入ったらKさんがいた。だからジャムのことを思い出そう。
 ジャムは9歳まで一緒に過ごした家族と、ある事情で別れることになり、その家族から飼い猫について相談されたのが、Kさんの夫だった。私のうちにいるのが全て外にいた子ばかりで、猫の保護に多少詳しいと知っていたから、私に話がきた。2005年の年末くらいだったろうか。
 最初は里親を探すという依頼だけだったが、落ち着かない家族の中できちんと世話をされていない様子が窺えたから、とにかく私が預かることになった。預かるにあたっては基本の健康診断とワクチンを済ませてもらった。
 で、いよいようちに、ジャムの飼い主の夫という人が猫入りキャリーと新しいトイレキットを持ってやってきた。玄関にキャリーとトイレの箱をまず置いて、健康診断の検査結果とワクチン済み証明を見せてくれた。それを受け取って確認して、さて猫の入ったキャリーを開ける段となった。
 飼い主がジャム〜と優しく声をかけながら開けると、ジャム本人が出てきたが、いきなり驚かされたのは聞いたこともないほどの物凄い唸り声だった。そんな唸り声、すでに4匹いる猫メンバーからは聞いたことがなかった。音量もそこそこあった。私に言わせれば猛獣だった。
 猛獣は丸くてもっちり全体が太くて足が短かった。それが恐ろしい唸り声をあげながら、急いでいるふうには見えないが、彼女なりに急いで、開いている扉の方へトコトコと向かい、部屋に入り部屋の奥まで行ってカーテンの後ろに隠れた。隠れてなお唸り声は止まない。
 元の飼い主は苦く笑いながらあれれという感じで、目の前にはいないジャムにお別れを呟き、人間同士はきちんとお礼やら何やら言い合ってお仕舞いになった。かわいいですねというお世辞もあらばこそ、相手信じなかったろうな。
 元飼い主が帰ってからカーテンの裏にいるジャムに声をかけると、唸り声はいっそう凄みが加わった。放っておいた方が良さそうなので、しばらくそのままにした。
 先住猫たちはやはり警戒していただろうか。だいぶ記憶が薄れている。興味は示したと思うが、みんながいる部屋とは違う部屋に入っているので問題はなかった。
 しばらくしてからジャムのいるところを偵察した。呼びかけるとやはり唸り声が返ってきた。かわいそうに不安でいっぱいだったろう。また私は部屋から退散した。
 時間をおいて再びジャムを見にいく。と、驚いた。部屋の床に置きっぱなしだった、未開封のロイヤルカナンの2Kgの袋がどてっぱらを噛みちぎられて、中身がこぼれ出ている。ジャムは私の気配を察して、一足早くカーテンの後ろに隠れてしまった。唸り声は途切れる時もあるが、思い出したように大音量になる。
 キャットフードの袋の材質はアルミだ。未開封の袋を食いちぎるってどんなか。これは、健康診断の検査結果に問題が現れていた。白血球の数値が極端に高かったのだ。そういえばと後から心当たるものがあった。その理由が副食の缶詰ばかり食べさせていたからだと医師から言われたそうで、栄養の偏りによるものだということだった。

続く