12月8日は父の命日 そして父の靴2019/12/10 23:19

2012年の12月8日の未明に父は病院で息を引き取った。86歳だった。
肺癌が見つかってから手術を経て半年、手術は成功したものの予後が芳しくなく、一度数日の退院ができただけでそのまま感染症を起こして痩せ細って亡くなった。
ただでさえ食べものの好みがうるさいのに、病気のために食欲も湧かずたとえ食べたくても喉を通らなくなった。そういうことが続いて、退院を期待してベッドの上で行っていた脚を上げる運動も段々ときつくなり、やがてどこかで自分の命の長くないことを悟っていったようだった。
どこの時点でだか、何を思ったか自分のお気に入りの靴を捨てるように私に命じた。それはキャメルのトカゲ革を配した革底のレースアップの靴で、とても良いものだった。お気に入りとはいえ高齢になってから楽に履ける靴ではなく長らくコレクションのようになっていた。
私はこの頼みにただならないものを感じて、分かったと返事をしながらそれまで何とか保っていた落ち着きを失った。今更何故その靴を捨てるように私に頼むのか、理由も聞けなかった。とても寂しすぎて聞けなかった。
そして私は実家に寄ってすぐさまその靴を車に運んだ。数日車の中にあったが、しばらくして私は捨てた。頼みを聞かなくてはならないという強迫観念が生まれた余裕のなさで。
今になっても後悔している。せめて写真を撮っておけばよかったと思う。思い出は心の中に?それはそれでその通りだが、私はまだ生きている。思い出したい。あの靴がどんなだったか忘れかけている。靴が好きで靴のデザインが好きで父の好みも知っているのに。
とにかくなんでもいいから仕上げたい。

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